おはようございます。
あさぎり会計事務所の税理士の山根です。
暑かった夏が終わりましたね~秋ですね~
秋と言えば「税務調査」の秋です!
税務調査の秋に備えましょうということで、
今回は全部で4構成に分けて、いろいろな角度からお話ししていきたいと思います。
内容は以下の通りです。
1.税務署はどの様に税務調査先を選定しているのか?
2.そもそも税務調査は強制なのだろうか?
3.税務調査を受ける時の留意点
4.税務調査の最終局面でよくある事
1.税務署はどの様に税務調査先を選定しているのか?
● 調査先の選定方法
税務署では、まず、法人を過去の申告状況から以下の3グル-プに分けています。
1. 申告・納税の実績が良好な法人
2. 過去に不正(重加算税)があった法人
3. 上記のいずれにも属さない法人 → 大半の法人がここの分類
1.の法人については、前年と比べ売上・利益等、資産・負債の変動が少なければ
税務調査はスル-される可能性が高いでしょう
2.の法人につては、定期的(3年)に税務調査があります
3.の法人が数的に圧倒的に多く、結果、選定されやすいのですが、
その中で、前年と比べ売上・利益等、資産・負債の変動が大きい法人が税務調査になる様です。
又、税理士が変わると税務調査に入られるという話がありますが、これには根拠があるんです。
税理士によって、それぞれ科目(仕訳)の癖があるので、
前税理士と違う科目にする事によって表面的に決算書の数値が大きく変動する場合があるのです。
税理士が変わった場合には、科目変動が出ない様にリクエストした方がいいでしょう!
倫理的に、チクる税理士は居ないと思いますが・・・あまり変な止め方は危険かも・・・
それから、上記の2.の分類法人になると、定期的な税務調査から逃れられなくなるので、
面倒でも、重加算税となる修正申告だけは避るべきです。
● 決算月による調査時期の選定
まず、税務署の内部的な話ですが、
7月~12月を上期、1月~6月を下期に分け、
職員は、3年に1度原則引き継ぎなしで、7月の頭に異動になる、という事があります。
次に、税務調査の行われる主な時期は、
9~12月(秋)と
4~6月(春)に、 集中します。
税務調査が秋になるか春になるかはランダムではなく、決算月によって分類されている様です。
〇 2月~5月(4ヶ月分)決算法人については、7.8月に選定し秋の調査
〇 6月~1月(8ヶ月分)決算法人については、1.2月に選定し春の調査
が原則です。
う~ん!何か変ですよね!!
秋と春の選定では、4ヶ月分と8ヶ月分で、月数だけ見ると倍違いますね!!
ただ、日本の法人は3月決算法人の数が圧倒的に多く、数的には同じ位になる様です。
では、実務上は、秋と春の税務調査では、どちらが楽なのでしょうか?
答えは、春の税務調査の方が楽です。
理由は、
■ 秋の税務調査はタイムリミットが翌年6月まであるので中々妥協しない
逆に、春の税務調査はタイムリミットが6月までと短く、
物理的に終わらせる必要があるので、比較的妥協してくれる可能性が高くなる
■ 秋の税務調査で、頑張った方が、署内での人事評価等が高い
どうせ頑張るのなら、春より秋に頑張った方が出世できる
以上が、決算月と税務調査の時期との関係ですが、
この原則に当てはまらない場合には、
何かネタを掴んでいる決め打ちだと思った方がいいでしょうね!!
● まとめ
税務調査って、何か嫌ですよね!!
ちゃんとやっていれば怖くはないけど、でも面倒くさいですよね~!
特に、秋の税務調査は大変なので、
2月~5月決算法人については、決算期変更を検討してもいいのかもしれませんね!
決算期の変更は、登記事項ではなく、
定款の変更(株主総会)だけで出来るので、手続きは非常に簡単です。
最後に、1年の内で最も税務調査に入られる可能性が低い決算月は何月かお分かりですよね!?!
分からない方、気になる方はご連絡下さい。
2.そもそも税務調査は強制なのだろうか?
● 税務調査は断れるのか
さて、次のテーマに参ります。
そもそも論ですが、税務調査って断れないのだろうか?強制なのか?
と思ったことはありませんか?
結論から言うと、事実上断れません!!
まず、税務調査には、強制調査 と 任意調査 があります。
強制調査
国税局査察部(通称マルサ)が、裁判所の令状を得て強制的に行うもので、断ることはできません。
脱税額が1億円を超える等、相当悪質な場合が対象なので、
あまり心配しなくていいでしょうし、遭うことはないでしょうね!!
私も、マルサの税務調査には、立ち会った事はありません!
そのような筋の悪いお客さんは居ませんので・・・
任意調査
通常、税務調査と言うとこの任意調査に該当します。
任意なので断れそうな気もするのですが、
税務職員は「質問検査権」という、納税者に質問する権利が与えられており、
納税者はこの質問を黙秘したり、虚偽の陳述ができないのです。
断ったり、嘘を言うと1年以下の懲役又は50万円以下の罰金があります。
という事は、事実上断れないですよね!!
任意というのはあくまでもマルサの強制調査に対応する言葉なのでしょう。
言葉は「任意」ですが、実態は任意じゃありません・・・。
また、取引先に対する「反面調査」というものがありますが、これも同様に断れません!
取引先に「反面調査」が実施されると信用失墜等で経営上影響を及ぼすかもしれませんが、
法律上、税務職員は事前通知なしで実施する事が出来ます。
ただし、国税庁の事務運営指針(税務職員が守らなければならない内規)の中に、
「反面調査の実施は、
取引先等に対する反面調査の実施に当たっては、
その必要性と反面調査先への事前連絡の適否十分検討する。」
とありましたので、
提示した帳簿や書類では物足りない理由・その必要性は何なのかは、主張・反論出来ます。
反面調査でも、何でもかんでも許されるわけではありません。
また、実務的には、取引先に反面調査に行くのなら「一言言ってよ」とお願いすると、
事前に教えてくれるケースが多いようです。
後で、無用なトラブルになるのを避けたいのでしょうね!!
● 無予告調査について
ある日突然、事前の通知もなく税務署が来る場合があります。
これを、俗に「無予告調査」と言いますが、
これは許されるのでしょうか?断れるのでしょうか?
突然来たら嫌ですよね!恐いですよね!
マルサの強制調査でなければ、とりあえず断りましょう!
一旦会社に入れてしまうと、調査は始まってしまいます!
では、法的に断れるかどうかが問題ですが、
まず国税通則法という法律で、税務調査は原則、事前通知が必要となっています。
更に、事務運営指針にも、以下のように書かれています。
事前通知を行わない場合の手続
実施の調査を行う場合において、納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又は
その営む事業内容に関する情報その他国税庁、国税局又は税務署がその時点で保有する情報に鑑み、
(1) 違法又は不当な行為を容易に旨、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ
(2) その国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、
事前通知を行わないものとする
又、通達(これも税務職員が守らなければならない内規)に5つ例示が出ています。
全部書くと長くなるので割愛しますが、
全ての例示に「合理的にに推認される場合」という文言が入っています。
したがって、過去の申告状況や集めた情報から、
事前通知をすると隠したり逃げたりする等が
合理的に推認される場合以外は、事前通知が必要という事です。
尚、予告調査の対象とされ易いのは、飲食店等の現金商売ですが、
単に「現金取引」だからだという理由だけでは絶対に許されません!
勿論、表現が抽象的ではありますが、反論の余地は十分あると思います。
合理的な説明を求めてください!!
まあ、いずれにしても、税理士が来るまでは断る事・入れない事です。
それでも言う事を聞かない場合には、次に会うアポだけを決めて帰ってもらいましょう。
最終的には、税務調査にはなりますが、
初動体制の不備を指摘すれば、その後の調査が有利になる場合があります。
実際、弊所でも無予告調査で調査を開始しようとした事に、猛烈に抗議した結果、
その後の調査が有耶無耶に終わったケースもあります。
毅然とした態度で臨みましょう。
● まとめ
税務調査については、平成25年度より国税通則法の改正や事務運営指針により、
我々が思っている以上に、税務署(税務職員)がこと細かく縛られる様になり、
非常に神経質になっています。
にもかかわらず、昔ながらの方法で調査が進められる場合もあります。
税務調査の手続きや進め方については、確実に変わっていますので、
何でもかんでも税務署の言う事が正しいのではない!という事だけは覚えておきましょう。
3.税務調査を受ける時の留意点
● 録音について
税務調査でよく問題になるのが、
あの時言った・言わないで、後で揉める事です。
でも、録音しておけばこんな初歩的な問題は解決出来ますよね。
ここで、悩むというか問題なのが、そもそも録音はしていいのか?という事。
録音は問題ありません。
法律上、特に禁止はされていません。
又、2002年の2月の京都地裁で
「違法な調査を受けた原告が、
・・・(中略)・・・
調査の様子を撮影・録音することにやむを得ない面がある・・・」
という判例も限定的とはいえあります。
ただし、税務署は録音する事を非常に嫌がりますし、
馬鹿の一つ覚えの様に
「守秘義務の観点から・・・」と、止めて下さいと言ってくると思います。
何の、誰の為の守秘義務なんでしょうかね!!
自分の会社の情報を自分で開示しても守秘義務違反になんかならないでしょ!
とは言え、あからさまに録音すると調査が進まない可能性があるので、
筆箱の中か、ス-ツの中で、分からない様に録音しましょう!
こっそり録音すると今度は、盗聴と因縁をつけてくるかもしれませんが、
自分の会社の内容の「記録」を取る為に税務調査官との対話を録音するだけですから
盗聴になんてなりません!
最終的に何も無ければ削除すればいいのですから、必ず録音はしましょう!
● パソコンの中身について
税務調査の過程でよくある光景で、
調査官:「社長ちょっとパソコンの中身を見せてもらっていいですか?」
社長 :「あ、いいですよ」
調査官:「後、中身について、その都度印刷してもらうとお手間なので、
USBに落としてもいいですか?」
社長 :「あ、まあ、いいですが・・・」
なんて事があります。
何か断りにくいですが、こういう場合はキッパリ断りましょう。
国税庁のHPの税務調査手続に関するFAQの問5に次の様に書いてあります。
Q:提示・提出を求められた帳簿書類等の物件が電磁的記録である場合には、
どのような方法で提示・提出すればよいのでしょうか。
A:帳簿書類等の物件が電磁的記録である場合には、
提示については、その内容をディスプレイの画面上で
調査担当者が確認し得る状態にしてお示しいただくことになります。
一方、提出については、通常は・・・(中略)・・・
プリントアウトしたものをお渡しいただくこととなります。
となっています。
調査官からパソコンを見たいと言われたら、その部分を画面上で見せ、
印刷してくれと言われたら、どうして必要なのか理由を聞いて、
その部分だけを印刷して渡して下さい。
USBでデータを渡すなんてもっての他です!!
最近は、削除したデ-タを簡単に復元出来るソフトがありますよ!!
会社の社長のパソコンには、取引先等の色々な機密情報や、
プライベ-トなメ-ル等もたくさんあると思うので、気を付けましょう。
特に、見られても、デ-タを取られても全く問題がない、
過去に変なデ-タを削除した事がない、
プライベ-トな物が100%無いと言い切れるのならいいですが、
自信のない場合には、必要な部分だけを印刷して渡すようにしましょう。
● まとめ
税務調査は、普段慣れていないので、緊張してビクビクする方が大半だと思いますが、
税務署が言う事が正しくなかったり、調査方法が正規の手続きに準じてない事もあります。
この様な時に、何の知識も無く、言われるがままに対応すると
同意した事になってしまうので、後で文句等が言えなくなります。
このような場合もまた、恐れずに毅然とした態度で臨みましょう。
4.税務調査の最終局面でよくある事
● 質問応答記録等の署名について
さて、税務調査も最終局面になってくると、
「質問応答書」「質問顛末書」「確認書」「申述書」など・・・
名称は様々ですが、書類に目を通してもらった後に署名を求められるケースがあります。
署名するって、なんか気持ち悪いですよね・・・!
署名をする事を断っていいのか?
署名を拒むと何か罰則があるのか?
等々、悩むと思いますが、断って大丈夫です!
というか、断りましょう!
税務署側が、何故、これらの書類を欲しがるかと言えば、
否認するための明確な根拠が薄いため、自白供述として証拠固めをしたいからです。
したがってわざわざ協力する必要はないですし、
しかも、法律的にも義務ではありません。
あくまでも任意です。
逆に言うと、強硬にこれらの書類に署名を求めてくる場合には、
否認根拠が薄いとも取れますよね!
過去の経験上、明らかに反省の意味を込めさせて(売上除外等明らかに悪質な場合)
署名させられる場合もありますが、
多くは、否認根拠が薄いケースが多いと思います。
又、「一筆重課(注)」なんていう俗語もあるくらいですから、署名には慎重になりましょう!
(注)重課というのは、重加算税の略で、字の如く、
金額的にも処分的にも重い罰則です。
尚、税務署側は、納税者がこれらの書類に署名しない場合には、
署名しない理由を記載して書類を完成させます。
書類上は、署名があっても無くても証拠書類としては同じだとも言われていますが、
個人的には、何かあった時にはやはり署名があるほうが強いと思うので、
署名は避けたほうがいいと思います。
● 税務調査終了の3パターン
税務調査の終結は3パターンしかありません。
1.申告是認
一番いいパターンで、何も修正しなくてよい、問題がないケースです。
この場合、税務署から非違がない旨の通知書が送られてきます。
2.修正申告書の提出
一番多いパターンで、指摘された事項を修正し、納税者が自ら申告書を提出します。
この場合には、「不服も無視縦は賦課であるが、更正の請求はできる」旨等を記載した、
「修正申告等の法的効果の教示分」に署名・押印が必要です。
わかりにくいかもしれませんが、
修正申告書を出すと、後で気が変わっても税務署を訴える事は出来ないという事です。
どうしても納得がいかなければ、修正申告書を出さない事です!
3.更正処分
上記2で、指摘事項に納得できず、修正申告書を提出しない場合に、
税務署長が更正を行い税額等を決定し、その金額を納税しなければなりません。
税額等が決定され、納税までしないといけません!!
上記2と何が違うかと言えば、後で、税務署を相手に喧嘩を売れるか売れないかです。
修正申告書を提出した場合には、訴えることが出来ない
更正処分の場合には、訴える事が出来る
ただ、一旦納税をしてからの戦いなので、
資金繰りや勝敗等を考慮しないといけません。
又、税務署側も、更正処分する時には、税務署長までの決済が必要となり、
手続きが非常に煩雑なので、出来れば修正申告して欲しいというのが本音だと思います。
税務調査の現場では、グレーな部分が多いので、
この様な心理状況を勘案しての駆け引きも必要かもしれませんね!
* その他
尚、上記2・3共に、追徴税額が発生した場合には、
加算税と延滞税を本税の他に別途納付しなければなりません。
● まとめ
税務調査の最終局面で、調査を早く終わらせたいと思い、
安易に書類に署名したり、修正申告書を出すケースが多いんですが、
よく考えましょうね。
調査を終わらせたいのは税務署側も同じですから、
安易に妥協せず、時には駆け引きをしながら税務調査を乗り切りましょう!