あさぎり会計事務所の税理士の山根です。
本日のテ-マは、税務の落とし穴です。
事業承継や相続対策で利用される「相続時精算課税」の話です。
━━━━ 相続時精算課税の落とし穴 ━━━━・・・・・‥‥‥………
贈与税の特例で「相続時精算課税」というものがあります。
この制度を利用すると、暦年贈与(110万円まで非課税)が使えな
くなるので、経営者・資産家の方には積極的に薦めませんが、この
制度の特性を利用して次の様な場合には節税提案をします。
【利用する前提条件】
○ 土地等で将来開発等の予定があり、現状価値のない土地が化け
る(高騰)事が予測される場合
○ 会社の業績が順調で、自社株の価値が年々上がる可能性が高い
場合
○ その他の資産で、将来確実に値上がり期待・確定している場合
以上の様に、将来価値・価格が高騰する事が確実と認められる時
【特 性】
相続時精算課税は字の如く、相続時にはその贈与した財産を相続
財産に持ち戻して相続税の計算を行うが、その持ち戻しをする金額
が、「贈与時の金額」でいいのです。
つまり、上記の様に将来値上がりをしても贈与時の金額で固定出
来る為、上記の様な前提条件の場合には、相続税の評価額が安くな
り、結果、相続税が節税出来るわけです。
【手 法】
上記の前提条件の中でも、自社株の場合には、会社の含み損を計
上したり、社長に役員退職金を支給したりして株価の評価を下げ、
この制度を利用し一機に株式を移転させます。
【効 果】
その後、相続時に土地が値上がりしたり、自社株の評価が跳ね上
がっても相続税の計算は贈与時の価額で計算されるので相続税の節
税が可能となる。
【落とし穴】
この様な提案は税理士さんもされるし、節税本にも良く出ていま
すが、本当にこれでいいのでしょうか??
答えは△です。税理士的には、税務の節税アドバイスをしている
のでOKかもしれませんが、落とし穴になるケ-スがあります。
~そ の 1~
何かというと「遺留分」の問題です。
バトンタッチを受けたご子息が、自社株の問題がクリアになり、心
が晴れ、会社を大きくし、業績がアップした結果株価の評価が10倍
20倍に跳ね上がったらどうなりますか??
やっぱ、節税対策しといて良かった-では済まないかも・・・・
確かに、相続税の計算は、10倍、20倍にに跳ね上がる前で計算出来
るのですが「遺留分」の減殺請求があった場合の対象となる金額は、
相続発生時の金額、つまり、株価10倍、20倍の金額ですよ・・・・
税務の事だけ考えて対策をすると、自分で自分の首を絞めるような
事にも成りかねないので、ト-タル的に問題を考えないと大変な事
になる場合があります。
~その2~
受贈者(息子)が先に死んだら・・・・
人の寿命に順番はありません。
この制度を利用して、息子が先になくなると同じ財産に2回相続税
がかかるんですよ・・・・
(設例)
・父(H26年死亡):相続人は母と孫(代襲相続人)
・息子(H24年死亡):相続人は妻と子
・H20年に1億円を息子に相続時精算課税で贈与
(1)H20年の贈与税
(1億円-2,500万円)×20%=1,500万円
(2)H24年息子の相続税(説明上息子の財産は父からの贈与のみ)
妻と孫に1億円から贈与税1,500万円を控除した財産に相続税発生
(3)H26年父の相続税
1億円が父の持ち戻し財産となり、妻と孫に2度目の相続税発生
尚、妻は、遺贈によって財産を取得した事になる
上記は、説明上贈与財産の値上がり等は考慮していませんが、同
じ財産で2度の相続が発生します。
【最 後 に】
今回の話は、レアなケ-スかもしれませんが、節税の事だけでなく
トータル的に考えて対策をしないと、後でとんでもない落とし穴が
待っているかもしれません。
税金の事だけに注視せず、広い視野で考えましょう。