あさぎり会計事務所の税理士の山根です。
今回のテ-マですが、またまた「税務の落とし穴」シリ-ズです。
今までは、税金と他の法律(民法等)との絡みにおいて税金では
得するが、他の法律で思わぬ「落とし穴」がある、という様な例を
書いてきました。
今回は税金と税金の絡みにおける「落とし穴」です。
税金と一言で言っても、所得税、法人税、消費税、相続税、贈与税
など色々な種類のものがあります。
これらの税金が絡む時があり、複合的に考えて処理しなければ一時
的には得したが最終的に大損する事があります。
今回は、所得税・法人税・相続税が絡む内容です。
自社ビル所有の方が、会社から地代を貰っていない場合に、大きな
「落とし穴」があるという話です。
本日のテーマ「自社ビルの地代は無償でいいのか」
- 内容
(概 要)
今回の話は以下の形態の方が該当します。
○ 同族で会社を経営されている方
○ 本社を所有している方
○ 本社の名義が建物が会社、敷地が個人
この様な所有形態の場合、通常会社は個人に敷地分の地代を支払います。
しかし、会社の業績が良くない場合には
○ 地代を払うと会社の赤字が増える
○ 会社は累積赤字があるから地代を抑えて利益を出しても法人税
は発生しない
○ 地代を払えば、貰った方の個人は所得となり、所得税を払わな
ければならない
などから、地代の支払いをしていない会社があります。
これでイイのでしょうか??
答えは、△です。
所得税・法人税の事だけ考えれば○ですが、
相続税の事を考えると×です。
実は、今回の様なケ-スで地代が無償
で
相続が発生した場合
「小規模宅地等の評価減の特例」が利用出来ないのです!!!
(小規模宅地等の評価減とは)
「小規模宅地等の評価減」??
初めて聞かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは相続税
の特例制度(優遇規定)です。
相続税の計算をする時、通常、土地の評価は路線価によります。
この場合に、その土地の中で自宅として利用しているものや商売等
で事業の為に利用している土地については、50%か80%土地の評価を 減額してもらえるという規定です。
ただし、この特例を利用する場合には、様々な条件があります。
上記の様に地代が無償だと80%の減額が受けれない!!!
(具体的設例)
では、具体例でどれ位相続税額が違うか見て下さい。
(家族・財産内容)
・相続人は子供2人
・被相続人(亡くなった人)の財産
現預金他1億円、本社敷地1億円(100坪)
(1)本社敷地の地代を会社が払わない場合(無償)の相続税額
○財産評価額=1億円+1億円=2億円
○基礎控除額4,200万円を控除した1億5,800万円に対して
○続税額3,340万円
(2)本社敷地の地代を会社が払う場合(有償)の相続税額
○財産評価額=1億円+2千万円=1億2千万円
「小規模宅地等の評価減」により80%減額されます。
その結果、1億円の宅地の評価は、何と2,000万円です。
(注)実際は借地権の減額等により評価は更に下がります。
○基礎控除額4,200万円を控除した7,800万円に対して
○相続税額1,160万円
その差額は何と2,180万円となります。
この差は大きくないですか???
(小規模宅地等の評価減の特例を受けるための条件)
先にも触れましたが、これだけ有利な規定を受けるには以下の条件
を満たしていなければなりません。
長くなるので割愛しようと思いましたが、誤認されてはいけないと
思い書く事にしました。
○ 被相続人・相続人の親族等が同族会社の株の50%超を保有
○ 敷地の承継者(相続人)が相続税の申告期限まで役員
○ 敷地等を相続税の申告期限まで引き続き同族会社の事業の為に利用
○ 敷地の承継者(相続人)が相続税の申告期限まで保有
○ 会社に継続的に相当の対価(有償)で貸付
以上の条件が1つでも欠けると受けれないので要注意です。
また、この特例には他にも「居住用」の特例等もあります。
何かの機会で説明しようと思います。
- 対策方法
○ 地代を払う(有償にする)
・ただし、地代の金額はあまり安すぎると無償とみなされる
・最低限、固定資産税の3倍以上にはしましょう
・個人所得を抑えたければ「役員報酬」を下げてその分を地
代にすればいいのじゃないですか!!
○ 建物の名義を会社から個人(敷地所有者)に移す
・建物の名義が被相続人になれば地代が無償でも、上記のそ
の他の条件を満たせばこの特例を受ける事が出来ます
- 編集後記
今回、お伝えしたかったのは、短期的な節税だけを考えると思わぬ
「落とし穴」があるという事です。
時と場合にもよりますがト-タル的な税金を考えて、何が得で、何
が損かを常に税理士と相談して進めましょう。
一時的な節税が出来ても、最終的に他の税金でガッポリ取られれば
何の意味もありませんからね。