あさぎり会計事務所の税理士の藤田です。
今回の内容は、所得税についてです。
概要
賃貸建物を売却した場合において、売却時までの減価償却費を不動産所得の必要経費として計上するか、しないかによって所得税が変わります。
これだけの内容で、「ピン」ときた方は、所得税について相当詳しい方だと思います。
所得税法(49条)では、減価償却費は、その年12月31日において有する減価償却資産につき減価償却費として、不動産所得等の経費に算入することができる規定になっています。従って原則は、期中売却した建物の減価償却費(期首から売却日までの減価償却費 以下同じ)は、不動産所得の計算上必要経費には算入できません。
ただし例外で、基本通達(49-54)において、期中売却した建物の減価償却費は、不動産所得の経費に算入しても良いことになっています。
つまり、期中売却した建物の減価償却費は、不動産所得の計算上、計上するかしないかは選択ができるということです。
その前に、所得税は、総合課税の所得と分離課税の所得に分けて所得税を計算し最終的に合算して納付する税金です。
総合課税の所得は、事業所得、不動産所得、給与所得などを合算して所得税を計算します。この所得税の税率は、所得が高くなれば税率が高くなる仕組みになっています。
分離課税の所得は、株式の譲渡所得、不動産の譲渡所得などで、所得ごとに税率をかけて所得税を計算します。税率は、所得の大小に関係なく、要件によって一定に税率が決まっています。
ここで大事なのは、総合所得と分離課税の所得では、税率が違うということです。
減価償却費をどちらで計上するかによって、この総合所得と分離課税の所得が変わり税額も変わってしまいます。下記において、簡単な具体例で説明します。
具体例
なるべくわかりやすくするため、条件は、簡単に設定しています。収入と経費は、期中売却した建物の減価償却費のみで計算しています。
<前提条件>
不動産収入 2,000万円(総合課税)
期中売却した建物の期首帳簿価格(未償却残高) 3,000万円
期中売却した建物の減価償却費 500万円
建物譲渡価格 8,000万円(分離課税)
総合課税の税率55%(最高) 分離課税の税率20%(長期分離課税)
A 原則 不動産所得の計算上、売却時までの減価償却費を計上しない場合
1.総合課税2,000万円×55%=1,100万円
2.分離課税 {8,000万円-3,000万円}×20%=1,000万円
3.所得税 合計 1 + 2 = 2,100万円
B 特例 不動産所得の計算上、売却時までの減価償却費を計上する場合
1.総合課税(2,000万円-500万円)×55%=825万円
2.分離課税 {8,000万円-(3,000万円-500万円)}×20%=1,100万円
3.所得税 合計 1 + 2 = 1,925万円
C 差額
AとBの差額 175万円
今回のケースでは、期中売却した建物の減価償却費を不動産所得で計上したほうが得になります。
これは、総合課税の税率が55%>分離課税の税率20%で税率が分離課税よりも総合課税の方が高いためです。
期中売却した建物の減価償却費を不動産所得で計上したほうが良いかどうかは、その都度、判断が必要です。
注)短期譲渡所得の税率は、39%です。
編集後記
所得税の計算は、総合課税と分離課税があり、所得の分類により税金が変わり非常に複雑です。今回のテーマは、わかりにくかったかもしれませんが、お伝えしたかったのは、
税法って意外と落とし穴があったり、気づかないところで損したりするもんだなと感じて頂けたら良いかなと思います。