おはようございます。
あさぎり会計事務所の税理士の藤田です。
今回のテーマは、相続が発生した時の遺産分割の話で「預貯金は、遺産分割協議の対象外」という内容です。
「うそ、預貯金は、当然相続人が遺産分割協議をして取分を決めるのでは」と思っていませんか?
もちろん、相続人が円満に分割協議をした場合には、今回の話は関係がないですが、相続争いになり裁判所のお世話になる場合には、裁判所は、預貯金と預貯金以外の財産(不動産,手持ち現金など)で違う考え方をします。
概要
裁判所は預貯金に関する遺産分割の取扱いを、遺産分割の対象外財産としています。つまり相続開始時に相続人が法定相続分に応じて分割する財産ということです。
誰が決めたのか? この取扱いは、法律ではなく、最高裁がこのような立場をとっているのです。
このため、相続トラブルで裁判になった場合には、裁判所は、預貯金については、相続分で機械的に按分する事にしています。
ただし、争っている相続人同士が合意して預貯金を相続財産に含めて協議を行うことにした場合には、預貯金は、他の相続財産と同じように分割協議の対象となります。
逆に、相続争いになって、預貯金を法定相続分だけもらえばいいと思っている人がいる場合に、預貯金を分割協議の対象財産に含める合意をしなければ、法定相続分で取得する事ができます。
具体例
わかりやすく、具体例で説明します。
たとえば、地主の方で、先祖代々長男が相続をする家系の場合において、次男が、不動産はいらない、預貯金のみ欲しいと思った場合、次男は分割協議をせずに(争わず)預貯金の相続分相当額を取得することができます。長男は、不動産と相続分相当額の預貯金を取得することになりますが、多額の相続税がかかり納税資金に困ってしまいます。
被相続人(亡くなった人) 父 相続人 2人 (長男 次男)
相続開始時の相続財産 6億円
相続税 2億円
■相続開始時の相続財産が預貯金2億円、不動産4億円の場合
・次男の相続の計算
相続財産 2億円×1/2=1億円
※預貯金は、分割協議をしなくても自動的に取得することができます。
相続税 2億円×1億円/6億円=3千万円
税引後の相続財産 1億円-3千万円=7千万円(預貯金のみ)
・長男の相続の計算
相続財産 6億円-1億円(弟の財産)=5億円(不動産4億円 預貯金1億円)
相続税 2億円×5億円/6億円=1億7千万円
長男は、預貯金1億円しか相続していない為、不動産を売却するか借金をしないと相続税が支払えません。
税引後の相続財産 5億円-1億7千万円=3億3千万円
長男は、3億3千万円と弟より多くの相続財産を取得していますが、相続税の納税により預貯金がありません。
預貯金だけをみると、次男が沢山、預貯金を取得した結果になります。
このように預貯金だけ欲しいと考える相続人も多いのではないかと思います。不動産は、資産価値があれば良いのですが、郊外の不動産など売却したくてもできなかったり、固定資産税の負担が大変だったりして維持管理が大変な場合があります。
実務上は、様々な相続財産があり、また、相続人の間の利害関係も複雑です。
どのような提案が良いかは、お客様によって変わります。
ちなみに、弊所は弁護士と共同で依頼者の利益を最大限考えた提案を得意としています。
<補足 金融機関の手続き>
上記の話は、裁判所での話であり、金融機関が上記の理論に基づき、相続手続をしてくれるかは、金融機関の対応次第であり不透明なところがあります。
編集後記
今回のテーマは、しっくりきましたか?預貯金と預貯金以外の財産で遺産分割の仕方が変わるのはおかしいと思いませんか。預貯金を含めた全体の財産で分割協議しないといけない気がしますよね。
今後、何らかの方法でこの取扱いは変わってくるのではないかと思います。